鳥海山の花々 秋田・長野県人会 五味申吉氏 写真集

ミヤマダイモンジソウ 8月 アオノツガザクラ  ハクサンイチゲ 8月 ハクサンシャジン 7月
 
ホソイワベンケイ 8月 イワブクロ 8月 イワイチョウ 8月 クルマユリ 7月

ミヤマホツツジ 7月 ミヤマリンドウ 8月 ニッコウキスゲ 7月 チョウカイフスマ 8月

ウゴアザミ 7月 ウサギギク 7月 イワギキョウ 8月 イワギキョウ 8月
          

  ●ふるさと呑風便 第30号/平成3年9月15日   (佐々木三知夫)
 
    イワギキョウ

 ほほえみ花のくにみやざき。と印刷されている手紙を頂いた。宮崎県東京物産観光あっ旋所長の長沼武之氏からであった。
 長沼さんとは去年の六月、浦和の日本ふるさと塾でお会いした。塾長の萩原茂裕先生曰く、「宮崎県で長沼さんを知らない人はもぐりである」といわしめた方。手紙には八月の終りに鳥海登山の予定とある。

 8月28日、11時。鳥海山五合目の鉾立。空は雲ひとつないほどの快晴であった。宮崎県の長沼、林田両氏とこれから鳥海山の頂上を目指して登る。ご両人とも登山服姿で、使いこなした皮の登山靴を履いている。こっちは高校時代、富士登山の時に使って以来の布の登山靴。はるか遠くの頂上を眺めて、果たしてあそこまで行けんのかと心配になってくる。
 奈曽渓谷を左手にコンクリートの道を登る。私が先頭、こっちの遅いペースに合わせてもらおうと長沼、林田氏が後に続く。石段になってきた。急坂にもなった。暑い。タオルを首に巻きつけて汗を拭う。三十分足らずでもう苦しくなった。休憩させてもらう。長沼さんに自分の歩くペースは遅いですかと聞くと、「いや、速すぎますよ。それじゃ、もちませんよ」
 山男の長沼さんから先頭に立ってもらい、再び登りはじめる。下り坂になった。賽の河原の立札。ニッコウキスゲの花が見えた。又上り坂となって、神社がみえる。草原で休息し昼食。熱いお茶が胃に温かい。中学生の団体が「こんにちわー」といいながら坂を下っていく。
 登り始める。七合目にある御浜小屋で300円のポカリスエットを3本買う。スポーツドリンクを飲みながら眼下の鳥海湖を眺める。
神秘的な青い沼。右手には日本海の青海原。左を見上げれば、青空に山の緑がつづき、薄紫色の岩場に変わって頂上が見える。
 あそこまで、まだまだ先が遠い。
 下り坂となった御浜の道筋に、夏の終わりに咲く高山植物が咲いている。紫色のあざみ、蒼いリンドウの花。八丁坂を今度は登りつめると、登山道が二手に分かれていた。初心者向けの千蛇谷コースを行くことにした。途中、藪を通り抜け断崖を真下に見て横切る。「足を踏み外すとこりゃあ、おっこちて間違えなく死ぬなあ」といいながら岩場を廻ると、おう、雪。雪渓が見えてきた。
 雪の上でしばし遊ぶ。南国宮崎県のご両人と魔法瓶の蓋で固い雪をかいて、ビニール袋に詰める。
 さて、もうひと踏ん張りだ。最後の急斜面を登りつめると、山頂の神社につく。山頂小屋が目に見えてきた。ゆっくりゆっくりと小幅で登る。暑い。息が苦しい。膝が上がらなくなった。途中、三度ほど休む。又、登り始める。もうちょっとだ。ふー、ふーと山頂小屋にたどりつく。時計は午後4時前を差していた。振り返って眼科を眺める。雪渓が太陽の影になっている。2人と握手。彼らのお陰で何とか登りつめることが出来た。
 大物忌神社の山小屋には電話があった。遊佐局。そうか、ここは山形県であった。
 5時。山小屋の食堂で夕食。500円の缶ビールで乾杯、旨い。飯はパラパラ。
 外へ出て、日本海へ沈む夕陽を眺める。強く、寒い風が吹いてくる。セーターを持ってきて良かった。水平線に沈みはじめる寸前、楕円形に変わる夕陽を見届け、三人で酒を酌み交わす。
 寒いので山小屋に戻り、一升瓶が空になるまで話し、飲み、毛布を5枚も重ねて寝る。

 翌朝、4時半起き。外はまだ暗い。七高山に登ってご来光を拝もうと、外へ。長沼氏が頭につけたライトの明かりを頼りに岩場を登っていった。白い月が西の上空。這うようにして登りつめたら視界が大きく広がった。東の方向の下界は雲。なだらかな斜面を登っていくと七高山の頂上に着く。そこには小さな石碑が立っていた。東の雲を眺めながら頂上に座った。少しずつ明るくなった。
 誰かが「のぼるぞう」と叫んだ。
 見えた。はるか遠くの雲の水平線から小さく真っ赤なボールが覗き出てきた。ご来光だ。
「万歳」の声が聞こえた。後ろを振り返ると、岩石が積み重なってできた新山(2236b)が朝日に照らされている。
 ふと足元を見ると、岩場に緑がへばりついていた。青い小さな花があった。「おお」と声にだし、顔を近づけて見ると桔梗に似た小さな花弁が一輪、上を向いて咲いている。2230bの鳥海山の一方の頂上でこんな可憐な花を見られようとは。
 頂上の岩場に辛うじて残っている土の根付き、密着して咲いていたその小さな花の名前は後で知った。
 イワギキョウという花と知った。