日本の遊びの文化
「鳥海山の海」
稜線が日本海にそのまま流れてる鳥海山。その根元といえる秋田・山形との県境にある象潟町小砂川という漁村で夏の間だけ育った。
そこは噴火した鳥海山の溶岩が海に流れ出し、多くの奇岩を造っている。
子どもの頃。
先が尖った形の千賀岩から、沖の島と呼ばれる岩場まで泳ぎきるのが目標だった。そこまで300bはあろうか。
鍛冶屋の正作は同い年で、チョサグと呼んでいた。彼は小学生の頃からとっくに沖の島まで泳げた。
チョサグたちと一緒に千賀岩から沖の島までスタートする。彼は速い。クロールで必死になってチョサグを追う。疲れてきて平泳ぎになる。無我夢中だった。
とっくに島まで着いていたチョサグは、岩場の上からガンバレと手を振っていた。
鳥海山の横腹に位置する小砂川に伏流水が細い川をつくり、小さな湾の砂浜へ冷たい水を流す。冷水は
川から流れてくるだけではない。海中の砂地からも泡状になって冷たい真水が湧き出ている。
チョサグたちはそんな海の怖さを知っていた。海で泳いでいて足を引っ張られたら、もがかないで、逆に引っ張られる沖の方向に泳ぎ切れば、波が浜に戻してくれる。それを知らないで、沖まで流された大人を、彼らは何人も助けたことがあった。
この辺りでは、8月7日になると7回、海に入ることになっている。
大いに日焼けをすると風邪をひかないといわれた。一日に7回も海に入ると身体が冷え切って、温まるた
めに岩場に焚き火をして、採った牡蠣を焼いて食べた。
夏に牡蠣が食べられるのはここ象潟だけだと知ったのは大人になってからだった。
これも鳥海山の伏流水が海に注いで、冷たい真水と海水が混じる所で育つ牡蠣だからであろう。
年々、牡蠣が取れなくなり、「鳥海山にブナの植える会」の仲間が山にブナを植え始めてもう8年になる。
象潟に残った漁師達は今、大漁旗を掲げて山に木を植えている。
鳥海山の海で共に遊び、海の怖さ、素晴らしさを教えてくれたチョサグは中学を出てすぐ船乗りになった。
以来、会ったことがない。