聞き書き感動物語     (2004.2.13 秋田魁新報)  

 「偉い先生方の前で、おれ、しゃべれるかいな。あんまり盛り上げるんでねえよ。でも、老人の自殺率一位問題は放っておけねえ。すぐにでも、聞き書き始めようよ。うちのおやじも、おれが聞いてやらないものだから、いくら出したら、聞き書きをしてくれるって言ってる。『話したいんだよ。自分の人生を。聞いてもらいたいんだよ。過去の苦労を。教えたいんだよ。自分が手にした技術を。残したいんだよ。自分が生きていたという証しを』。がんばろうよ、おれたち。おれが必要ならいつでもいくぜ」

 学友で作家の小田豊二に電話し、秋田で聞き書きの講演を頼んで、大学の先生もでられる、自殺防止に役立つかもしれないといったら、後でこのようなメールが入った。

 平成十四年一月末、主宰する秋田ふるさと塾地域づくり実践セミナーで、小田講師が「聞き書きは感動」と題して講演した。これをきっかけに塾を秋田聞き書き村とし、桜が散るころ、秋田大学名誉教授の井上章先生を会長に秋田聞き書き学会が発足した。

 趣旨は、「一人のお年寄りが亡くなることは、地域から一つの図書館がなくなるのと同じ。今、聞いておかなければもう機会はない」との小田さんの言葉に共鳴し、本県において、聞き書き運動を起こし、先人に学び、聞き書きによる美しい郷土を創る」。学会の顧問にされた小田さんを講師に県内三カ所で「聞き書き実践講座」を開き、三十八人の秋田聞き書き隊員も誕生した。

 昨年三月には、応募作から秋田聞き書き大賞、聞き書き村名誉村長賞、聞き書き特別賞を決定した。小田さんは、秋田聞き書き村名誉村長で作家の井上ひさしさんの賞状と署名入りの著書四冊を持参し、秋田市の三味線茶屋で愉快な授賞式を開いた。作品は冊子にした上で「秋田聞き書き村文庫」として、全県の図書館に寄贈した。今年度も、小田講師による聞き書き実践講座を、著書「書くための聞く技術」をテキストに県内三カ所で開催した。二十二人が聞き書き隊員となった。

 聞き書き運動は地域づくりである。自殺率低下に役立つかは不明だが、人間は、死ぬまで生きがいが必要。聞き書きは生きがいと誇りを持つ人づくりであろう。話し手と聞き手に心の交流があり、感動物語が生まれて地域に広がっていく。

 昨年暮に小田さんからメールが入った。近著「聞き書き・横濱物語」が横浜の書店で十月のベストセラー6位をキープしたとある。喪中の葉書も届いた。彼に電話して聞くと「八四歳だった。おやじの聞き書きはテープで三本、十八歳まで。満州に行く前に終わってしまったよ」と残念がっていた。聞き書きは、急がないといけない。
                                   (秋田市、秋田聞き書き学会事務局長 57歳)