自然を愛す元学生運動家との不思議なめぐり合い

 めぐり合いとは、本当に不思議なものである。
 土井脩司君は、「花の企画社」の社長さん。花の運動のリーダーである。花を愛する心を育て、平和な世の中を実現しようという美しい志の持ち主だ。最近、ビルの谷間によくみられるプランターといわれる移動花壇を提供している。成田に農場があって、仲間30人と花づくりにいそしむ毎日である。
 彼がぼうの前に現れたのが8年前。学生時代にはベトナムに五度も行った平和運動家の彼は、結局、花を愛する心に行き着いた。そして、日本が良くなるのも、悪くなるのもGNPの10%を占める三菱グループ次第だ、と考えて、ぼくを説得しにきたのだ。よく話を聞くと、いわゆる過激派とは全然違う、思想がまっとうな珍しい青年だ。それが気に入って大いに応援するようになった。
 藤本敏夫君は知る人ぞ知る、かつての学生運動の闘士。そして、歌手、加藤登紀子さんの旦那さんだ。いまは、無農薬の農産物を普及させようという「大地を守る会」の会長さんである。刑務所にいた時に、食物の重要さを思い知り、今後の日本にとって大事なのは農業である、それも無農薬のものが必要だと考えて、かつての仲間たちと事業を興した。ところが、前歴が災いして、なかなか相手にしてもらえない。困っている彼を土井君がぼくに紹介した。
 話してみると、これまた気持ちのいい青年で、その目的とするところも高遠である。「よき古きものは常に新しい」というが、自然を守る運動はいまの時代に必要なことであり、大いにやりなさいと励ましている。
 最近の彼らは、新しい農村社会、地域社会のあり方を模索しているという。どのような形で実を結ぶかよくわからないが、温かい目でみていってやりたい。
 このような付き合いを、人が何というかは知らない。しかし、若い時、損得勘定抜きに自分の信念に賭けた青年たちは信じられると私は思っている。

  田実 渉(三菱銀行相談役)
                     日経ビジネス 1981年1月12日号「交遊アラカルト」