昭和四十六年六月十八日
野田 卯一
拝啓 山々にはつつじが、庭先にはさつきが、池面には睡蓮の咲く季節となりました。
ご機嫌如何でございますか、お伺い申し上げます。
さて、この度私の愛する青年たちが「花の企画社」を創立し、花を通じて社会に貢献しようとしています。
若者たちの考えが、またその行動が大人たちによって憂えられ、案ぜられるのは現代世相の一断面ですが、その若者たちの中にロマンとヒューマニズムを根底として行動する一群の学生がありました。
これらの学生のグループは東南アジア学生親交会を結成して、打ち続く戦争に痛めつけられているヴェトナムの孤児を救済し、難民に温かい衣服を送り、ヴェトナムの学生と手を組んで平和が一日も速やかに回復されることを希って涙ぐましい活動を展開しました。また、ヴェトナムの真の姿を日本の人々に知らせるためにヴェトナム民族文化展覧会なども開催しました。
これらの青年たちは何れも学窓を巣立ちました。その多くは妻をも迎え、また良き夫を見出しました。しかし、かれらのヴェトナムに燃やした情熱は依然として今日でもたぎり続けています。世界より戦争を追放し恒久の平和をもたらすために如何なることをなすべきか、」かれらの考え、悩み、苦しんだ後達した結論は、『世界の人々の心を温く美しく優しいものにすることである。それがため地上に神より恵まれた花を活用しよう、花のもつ霊妙な感化力、慰和力を動員して人心を正し、優雅な愛情に満ちた社会を実現しよう、“フラワー・パワー”による人心の革命を実現しよう』ということでありました。
このような精神に基づき、かれらの協力によって生まれたのが「花の企画社」なのであります。
私はこれまで青年たちの相談相手となってきました。純真な愛情よりほとばしり出る悲願が打ち砕かれて無力感に沈むとき、激励を与え、経理や組織のわからぬかれらの無鉄砲な計画には経験の知恵をも頒ちました。
花の世界に挑む青年たちは過去一ヵ年花の業界で実地の訓練を積んで、今回の挙に出ました。花の業界の因襲と非近代的な取引の姿に驚きの目を瞠っていますが、『都市のリズムに自然の息吹を、人の心に花の安らぎを』をスローガンとして二十一世紀の日本にアプローチしようとしています。
私はこのひたむきなかれらの企画に強く共鳴すると共に、かれらの熱情をなんとか叶えてやりたいと思います。どうかかれらの精神と行動に深きご理解を賜り、出来る限り温きご指導とご支援を与えていただきますよう心よりお願いする次第であります。
右とりあえず寸書をもってお願いまで
敬具