花の時代 対談 長島茂雄・土井脩司         1992.3.3発行

    スポーツの心も花の心

土井 長島理事長は座談会や講演会などで「素直であれ、純粋であれ」と、いつもおっしゃっていますね。
長島 ええ。野球でもね、心が入っていなければ球は打てないんです。純粋で素直な気持ちで打席に立たないと、球は見えない。他のスポーツの世界でも、スーパースターと言われる人たち、たとえばカール・ルイスにしても、まったく無垢と言っていいくらい純粋な人です。
土井 そうなんですか、なるほど。
長島 私は、こう感じているんです。自分が追い続けてきたそんなスポーツの心も、あなたが求めてきた花の心もまったく同じものではないかと。
土井 同感ですね。実はこの前の連合婦人会全国大会での講演でも、私は感動したんですよ。「母の心は花の心」であって欲しいという長島理事長の願いが、胸にヒシヒシと伝わってきましてね。
長島 そうですか。そう言えば「心」と聞くたびにつくづく感じるのですが、現代はモノがあふれている時代ゆえか、「大切に生きる心」が不足しているのではないですか。たとえば、野球人なら野球道具を大切にする気持ち、それから先輩、監督、コーチや、応援してくれる大勢の人々を大切にする気持ち。これはさっき言った、純粋で素直な気持ちと同じ意味です。もっと言えば、人間が本来持っている源を大切にする気持ちとでも申しましょうか・・つまり、それは自分自身を大切にすることなんですね。自分の源、すなわち己の霊性に戻った時、我々はそこに神秘さえ感じるでしょう。
土井 長島理事長の側にいると、まったく天衣無縫と言うか、太陽の陽気さのようなものを実感します。(笑)以前、吉永小百合さんが私に「長島さんは花です」とおっしゃった意味がとてもよく分かります。それにしても、野球人の特性なのでしょうか。一緒に仕事をしていて、判断が早いのにはいつも感心しています。
長島 いえいえ、そんなことはないですよ。(笑)ただ、人生について考えた時、早いも遅いもその一瞬に自分を無心に持っていけるかどうかにかかっているんじゃないかとは思っています。花というものも、一時一処にすべてを賭けて、花を咲かせ実を結びますでしょう。そんな花に、私もお世話になってきたんです。ジレンマに陥りやすい梅雨の時期にはアジサイの花、また暑い夏の日差しの下で咲くヒマワリの花などに、どれくらい慰められ、また勇気づけられたか分かりません。
土井 私も同じです。胸がかきむしられるような悲痛な出来事に出会いながらも、花の凄さと優しさに勇気づけられたおかげで、今日を生きています。それにしても、色・形・香りの三要素をすべて持ち、また「うるおい」や「心」、そして「活力」、さらには「神秘性」までも有している、この「花」というもの。これは本当に素晴らしいものです。
 これからは、近代西洋文明に象徴される「鉄の時代」が終わり、いよいよ名実ともに「花の時代」が到来する。私はそう考えています。また、その考えをどんどん広めていきたいですね。
長島 そうですね。
土井 六年前の五月、成田空港の横で、「心の時代がやって来る」という横断幕の下、ご一緒に花と緑の農芸財団の発足式を行いましたね。参加して下さった八百人の方々とともに、「これからいよいよ始まるんだ」と、私の胸は感動でいっぱいでした。
長島 つい、この間のことのようですね。あの時は、マスコミの方々も戸惑っていたようだった。(笑)
土井 それにしても、長島理事長に出会えて本当によかったと思っています。臨調の忙しい最中、瀬島龍三ご夫妻が花の農場に来て下さって「長島茂雄さんに参画してもらったら」とおっしゃった時には、正直言って以外な気持ちでした。今は本当に感謝しているんですけれど・・・。と言うのも、ご存じのように私は、かつてヴェトナム戦争に関わりその悲惨さを目のあたりにした人間です。それが胸をかきむしられるような思いで、いざ日本に帰ってみると、そこでは皆がビールを片手にナイター見物・・・もう。苛立たしくなりまして、「野球がなんダ!」という抵抗感を抱いていた。だから選手としての長島茂雄も知らないんです。
長島 そうでしょうね。分かります。私も土井さんの前では、野球の話は遠慮しています。(笑)でも、そんなことは抜きにして、一人の男として土井さんと出会えて、本当によかったと思っています。
土井 こんなことを言うと変ですが、あの時の瀬島先生の言葉は、天の声ではなかったかと・・・成田芝山は日本における重要な地であり、長島理事長は大和民族の代表として準備されていたのではないかと真剣に考えているんです。成田山の鶴見猊下も、「仏の里、花の村」の先頭に立って引っ張っていって欲しいと申されておられましたね。
長島 私は、土井さんたちが20年前から、花をテーマに「花の心」を唱え、激しい闘争下の成田芝山を花で埋めようと考えられたことに感心したんですよ。
土井 以前、四谷の「維新力」でご馳走になり、長島理事長に真剣に話をさせてもらったことがまるで昨日のことのようです。あれから長島理事長や他の理事の皆さんのおかげで、随分、社会の花に対する関心も深まりました。何かほんのりと光が差してきたようです。これからも、ご指導をよろしくお願いします。
長島 こちらこそ。(笑)
土井 ところで私たちの「花と緑の農芸塾」も、今年は第7期を迎えますが(平成3年12月現在)、これまでこの農芸塾から、すでに25名の青年たちが巣立ちました。彼らは私たちの宝ですね。
長島 一般に現代の若者や子供というのは、夢や目標を持っていないように見えます。それに比べると農芸塾の塾生たちは、とてもイキイキしている。やはり、私たちの活動の趣旨を理解してくれる心があって、大地に足をしっかりとつけて生活しているからなんでしょうね。
土井 彼らの農芸塾への応募レポートを見ても、世界や地球に対する認識や自分の人生観をキチンと持っていて、本当に頼もしいかぎりです。彼らのような若者を見ていると、日本の未来にも光を感じます。私たちに経済力を含む総合的な実力がもっとあったら、もっと沢山の同じような若者を受け入れていきたい。
長島 頑張りましょう。ところで「花の学校」の募集をしたら千200の学校が手を挙げてきたんですって?
土井 ええ。事務局の話では、東京、千葉、埼玉、神奈川、愛知の5都県だけで1234校。まったく、語呂合わせのような数字です。(笑)
しかし残念なことに、それだけの応募があっても、今回は、そのうち24校にしか応えられなかった。この子供たちは、「花」を最も素直に受け止め、学ぶ心を持った子供たちです。そして彼らは、必ず、私たちの願う平和な文化国家日本の将来を築いてくれると信じています。このプロジェクトはイオングループのバックアップで実現したのですが、これからもぜひ拡げていきたいと思っています。
長島 私も先日、ある小学校へ花の贈呈式のために伺いました。子供はいいものです。そういえばこの運動には、以前三菱グループが援助してくれていたのでしょう。
土井 はい。大変なご理解と援助を得ました。花の輪運動は当初、中央区と千代田区の学校から始まり、続いて市川、成田と拡がりました。現在は谷中、小見川、野田、千葉、印西、高崎などにまで拡がっています。花というのは文字通り華やかなものですが、それを拡げる活動の裏には、花を植え育てる人々の地道な努力があることを忘れてはいけないと思います。また、そうしたことを皆さんにも知ってもらい、自らのために主体的に参加していただきたいですね。ですからまたそうした人々を喚起するために、長島理事長が先頭に立って、みどりの日や花のフォーラムといったイベントを積み重ねてきたわけです。おかげでこれまでに約5万人余りの方々のご理解を得ました。
長島 深沢宏さん、菅原やすのりさん、加藤登紀子さん、栗原小巻さん、Mr.マリックさんなど、多くの方がたに参加していただきましたね。
土井 皆さんのお力添えは、花の運動を進めていく上で、大きな励みとなり勇気となりました。本当にありがたい思いでいっぱいです。他にも「食と緑博」「ねんりんピック」「渡良瀬遊水地」「映画・花の季節」「全国地域婦人連合会全国大会」「世界陸上」そして「緑と花の輪フェスティバル」など数々の場で、理事長を初めとするすべてのスタッフが、自己の持てる全能力をかけて頑張ってきました。
長島 土井さんたちが誠心誠意頑張っていることを、皆さんよく分かっているんです。早く、千葉から世界へと花の輪を拡げていきたいですね。フラワービレッジ倉渕も5年目を迎えて、ようやく現実的な姿を見せ始め、各方面で脚光を浴びているのでしょう?
土井 村が一体となり、スタッフたちも花を携えて懸命に働いています。福祉を柱としたクラインガルテンの導入もキチッと納まり、いよいよこれからというところです。沢山の勉強をさせてもらっています。
長島 それでは、本丸のフラワービレッジについてはどうなんですか?土井さんも、芝山・山中に戻られたのですし・・・。
土井 理事長の期待に応えられなくて、本当に申し訳ないと思っています。この席を借りて、皆様にもおわび申し上げます。実際、三里塚・成田問題というのは、多くの問題点や、矛盾点を含んでいるものだと、つくづく思いますよ。
しかし、それは見方を変えると、政治・経済・農業・マスコミ・環境・教育など、日本が抱えているあらゆる『存在』の在り方を点検する絶好の場でもあるんです。つまり国際空港は、日本の玄関として我が国における地域社会の在り方を象徴する立場にあると考えているのです。それ故、この問題を真剣に討議し、これに取り組み、衆知の知恵を終結したら、日本中の色々な問題が解決されるモデルになると思うのです。言わばここは日本列島のヘソであり、ヨガで言うチャクラです。このチャクラが開けば、日本の他のチャクラも開くのではないかと・・・。
長島 海外から帰ってきていつも思うのですが、フラワービレッジを実現させて花と緑でこの日本の玄関を包み、「花の時代」「心の時代」あるいは「地方の時代」「文化の時代」の幕開けの場にできたら、どんなに素晴らしいことでしょう。
土井 現在、私が住んでいる芝山・山中を訪ねてくれる人たちの協力も得て、「地」と「地の人」を大切にしろという理事長の提言に従い、誠心誠意努力していきます。
長島 私も出来る限りのことを、これからもやっていきますし、農芸財団の理事評議員の先生方も真剣に取り組んでくれると思います。
土井 「万人が共有する哲学も宗教もない日本人が、人と人を繋ぐ『人間』の意味を忘れて単なる『人』になってしまった今こそ、だれもが共感しあえ、人間回復の素材となり、美しく生きることの努力目標となる『花』の存在が求められているのだ」矢口光子評議員はそう指摘してくれました。また高橋寿夫理事も、「技術文明の光と影のはざまに揺れ動く現代社会で一番大事なものは、太陽と土、そしてその産物である花や緑なのだ。それらを私たちの日常のシステムのなかに正しく組み込んでほしい」と発言されています。
長島 なるほど、その通りですね。
土井 「すべてに時あり」と、聖書にも書かれていますが、私たちの活動もいよいよ実現の時を迎え、各方面から沢山の人びとが参加してくれると確信しています。前田福三郎専務理事も、私たちの事業は必ず分かってもらえると確信してくれていますし、つくづく「時は神なり」という言葉を実感しています。
長島 実現しますよ、必ず。そのためにも。これからも多くの人びとに呼びかけていきましょう。私たちの想いを理解してくれる人がきっと沢山いるはずです。お互いに頑張りましょう。