諸国 味な はなし
秋田・「とんぶりあえ」


 日本海。象潟沖でキスを釣っている。九月末。海面の上に鳥海山がそびえ立っている。夕方になって海鳥が鳥山をつくっていた。鳥山の下にサビキをいれると、強い引きでサバが面白いように掛かる。秋田富士が夕陽に映えて美しい。
 釣ったキスを開いて一夜干しにする。翌日、一夜干しのキスをあぶって一杯飲る。
 ついでに瓶詰めの「とんぶり」を出して大根おろしにかけて食べる。なかなかいける。
 とんぶりは、秋田県比内町の名産。ほうき草を乾燥させて実を採り、なべで煮ると緑色の粒々が浮かぶ。昔は、東京の高級料亭でしか出なかったが、今ではデパートの食品売り場でも売られているようだ。
 比内町に「とりとん共和国」がある。「とり」はキリタンポ料理に欠かせない比内鶏のこと。それにとんぶりの「とん」をとって「とりとん」。このミニ独立国が、1988年に国連本部を訪ねて、国連加盟を申し込んだ。
 国連事務局次長だった明石康さんは比内町の出身。明石次長から「大使派遣と分担金の問題をクリアしたらどうぞ」といわれたが、いまだに国連加盟は果たしていない。ただし、とんぶりは国際的になった。明石さんが東欧の外交官に「陸のキャビアです」といって、とんぶりを食べさせたら、キャビアよりうまいと評判をえたそうな。
 秋田県人は新し物、珍しいモノ好きだ。東北の江戸っ子だと脚本家の内館牧子さんもいっている。
 民謡も、頭に秋田がつくと愉快な楽しい調子に変わる。新車購入率も高い。県民一人当たりの理美容院の数は日本一だ。つまり、見栄っ張りでエーカッコシーなんだろう。
 最近、沖縄名産のニガウリが秋田でも栽培されている。青年海外協力隊員として活躍した沓沢繁幸さんが、稲庭うどんのふるさと稲川町に戻って海外で覚えたニガウリを栽培している。近くのフィリピン花嫁たちに配ったり、出荷も始めている。
 新しモノ好きで見栄っ張りは大いに結構。エーカッコしてニガウリにとんぶりをあえて食べている。にがみに甘さが加わり、これがまたうまい。
(佐々木三知夫・秋田ふるさと塾主宰)