「会魔」ー欲出せ はみだせ 元気だせー
秋田ふるさと塾主宰 佐々木 三知夫
「最後は人間、人間性です」
と、井深大・ソニー社長(当時)が我母校の卒業式でこう結び、さっと演壇を離れた。三〇年前、校友代表として話されたその言葉がいまだもって頭から離れない。
二一世紀東北のシナリオを描くをテーマにして、地域産業おこしフェアが、東北七県の最後、青森市で平成三年十月二四日、二五日の二日間にわたって開催された。
主催は東北電力・東北地域産業おこし推進連絡会議であった。
私は第3分科会「これからの人づくり、その戦略」のパネリストの一人として出席した。他に鈴木繁夫氏(ふるさと村東京役場・ロマン亭店主)、緒方英雄氏(大分県大山町企画情報課長)、藤田満寿恵氏(福島県棚倉町長)、コーディネーターが福島大学教授の下平尾勲先生だった。
地域づくりは人づくりだ、とはお題目のように地域づくりの様々なシンポジウムの結論になる。
では、どんな人なのか、地域を愛するやる気人間づくりではないのか。
これからの人づくりの戦略として、成功の秘訣は「雰囲気づくり」「研修の実施」「組織づくり」となった。
仲間づくりの為には自由な雰囲気のなかで行う。研修とは、地域の中で新しい発見とか、地元を外から見たり、交流するなど、色々試みるということ。方法として有効なのは「良さの発見」です。地域の持っている良さを発見して、ほめるということが大切だと。それから、人が集まって、いろいろな意見が出し合える組織が必要だと。
ただ私は、どうも東北人は関東、関西の人間と比べて欲がない、面白くて、はみ出さないように思える。
「欲だせ、はみだせ、元気だせ」ということではないだろうか。
下平尾先生はいわれる。
「人材として地域づくりに活用するに当たって大事なことは、全体をまとめるリーダーと、裏方に徹するしっかりした人、そして素直にハイハイと仕事をする三種類の人間を集めるということ。それから、地域おこしには型破りの面白い人間が必要で、三種類のタイプ、若者、馬鹿者、よそ者を集めないと地域を活性化できない」
元気で、フットワークがよく、違いのわかる経験豊かな人間を結集させていけば地域を変えられるといった意味だろう。
私は、それにナイスミディ達の力も必要と考える。
平成五年十二月に秋田県本荘市深沢海岸に建立された「露国遭難漁民慰霊碑」。これは、六五年前に深沢海岸で遭難死したロシア・ウラジオストクの漁民ニコライ少年の慰霊碑である。ゴミ捨て場だったそこは今、日露友好夕陽がみえる公園となっている。この公園は、子供達にいいふるさとを残そうと、主婦達が燃えて、亭主の尻をたたき、募金運動を始めて完成させたふるさとづくり運動の結実であった。
第3分科会を聞いておられたのが東京女子大教授の伊藤善市先生。私は、まず自分づくり、そして仲間づくり、それから地域づくりだ。その為に、秋田県を面白くする会から、秋田ふるさと塾まで、様々な会を二〇程つくり、会魔といわれていると話す。
伊藤教授は、それを笑いながら聞いておられた。講評で「地域おこし人間は佐々木さんのように、会魔になれ」といわれた。
何も自分は好き好んで、肝臓壊すほどまで、会魔になった訳ではない。
冒頭に書いたように、私共の母校の卒業式に当時ソニーの社長だった井深大さんが、校友代表で挨拶された。最後にいわれた言葉が今でも頭の中に染みついて離れない。
「これから君たちは社会にでるが、世の中はそう甘いもんじゃない。厳しいものです。でも最後は人間です。最後は人間性です」といって演壇を離れられた。
井深さんは、じゃあ一体どんな人間なのか、人間性なのか教えてはくれないのです。
人間という商売を50年以上やってきて、様々な地域おこしを仕掛けてみて、井深先輩のいわれた「最後は人間だ」ということを実感している。
だから、自分より優れた人と出会ったら、その人間を捕まえるために会を作ってその会に入会してもらう。一つの目的をもった仲間で会を作ってお互い研鑽する。井深さんの言われた「最後は人間」の回答を得るために多くの会が自然と出来ていた訳です。
最近作った会は、杉ゲリラ隊。
秋田杉の美林は今、泣いている。放置されたまま間伐も枝打ちもされず、暗い杉林が沿道に多くみられる。
秋田空港から秋田市に向かうトンネルを二つ超えるとそこは雄物川となる。雄大な光景を隠しているのが間伐されない暗い杉林。この四月、そこを仲間六人で、間伐、枝打ちをした。ここは二〇年以上もほおっておかれ、杉には太い蔓が絡まって中は暗い。河岸の杉の木の枝を切ると一瞬、中へ一条の光が差し込んでいった。死の世界だった暗い杉林がぱっと明るくなった。感動的だった。
故・井深大さんのいわれる人間とは未だ、どんな人間なのかはわからない。
佐々木三知夫氏プロフィル
1946年 秋田県由利郡生まれ
68年 早稲田大学第一商学部卒業
参議院議員秘書などを経験後に秋田県職員となり、現在は秋田県国際交流課に勤務。
県の職務に携わるかたわら、地域おこし活動や国際交流活動に精力的に取り組んでいる。
・秋田県を面白くする会代表
・秋田県中小企業問題研究所主宰
・東京6大学秋田野球連盟理事長
・秋田ウラジオ会理事
・秋田ペルー協会理事
・秋田ふるさと塾主催