花ゲリラ情緒作戦


 花薫る五月。今、秋田市の千秋公園はつつじの季節。赤、紫、ピンクのつつじが配色され、最後に白いつつじが咲く。
 市内中心部を流れる旭川。昔、川沿が土手長町といわれた。旭川に沿った繁華街川反の川向かいの土手に、柳並木が続いている。昼、その通りを通ると、川向かいの飲食街はお尻を向けている。
 もう20年も昔。秋田県を面白くする会は情緒のない飲食街の背中かお尻に何か花を植えて、川反情緒創り作戦と称して、花ゲリラ作戦を立てた。
 最初、川反繁華街の裏側には、植えるべき場所が見つからない。ではと、春先の早朝、向かい側の柳並木の根元に花ゲリラを決行。植えたのは朝顔の苗だった。
 花ゲリラ人の一人に、元全国大学空手選手権のチャンピオンがいる。およそ、花には関心のない男が花ゲリラ作戦に半ば強制的に参加させられた。その後、早朝のジョギングで、自分が植えた柳の根元に、一人のおばあさんが腰をかがめて、何かを見ているの発見した。道路沿いにはフラワーボックスがあって、ペチュニアなどの綺麗な花が咲いている。おばあさんが見ていたのは、雑草にまぎれて咲いている、ピンク色の小さな朝顔だった。空手マンは感動した。自分の植えた朝顔の花が、フラワーボックスの花よりもおばあさんの心をうっていたんだと。
 川反近くの料亭のご主人は毎朝。四歳の娘にいわれ、右手にじょうろ、左手には水の入ったバケツを持たされ、誰が植えたのか柳下の枯れかかった朝顔の苗に水をかけてきた。
 この話を聞いて、秋田県を面白くする会では心やさしい彼女の為にその秋、柳並木の根元に水仙の球根を植えた。
 翌春。その料亭向かいの柳並木の根元に黄色い水仙の花がいっせいに咲いた。
 「安らぎの花が」と題して、女子銀行職員から地元新聞に投書があった。通勤途中に、柳並木の根元に咲いている朝顔が、根こそぎ雑草と一緒に刈られてしまった。毎朝、そこを楽しみに通り、すがすがしい朝顔を見て安らぎの心を感じていたのに、がっかりしてしまった。植えてくれた方の好意も無駄にされて悲しい、と。
 毎年、6月上旬の日曜日。秋田青年会議所が中心となって、旭川クリーンアップ作戦が決行される。現在では、秋田市内を流れる猿田川の清掃も実施されている。旭川沿いの柳並木に咲いた朝顔は花を咲かせ、実をつくって落とす。それが土に入り込み、翌春に他に雑草とともに芽を出す。しかし、クリーンアップ作戦では朝顔の苗と雑草の見分けがつかないのか、柳の根元が雑草と一緒にむしり取られてしまう。
 毎年、秋田県を面白くする会の花ゲリラ情緒作戦は、クリーンアップ作戦が終わった後に、朝顔の苗を植える。時々、枝豆の種やかぼちゃの苗を植えたりもしてきた。
 これには通行人もびっくりしたらしい。枝豆は誰かが収穫しただろう。
 今年も六月に、投書をされた女子行員のためにも朝顔を植える。名古屋から送られた、れんげ草の種も蒔いてみよう。
 情緒とは、自然と人間との思いやりの作業から醸し出される、のではないかと感じはじめている。