花のゲリラ作戦
 「良美ちゃんはいいお嫁さんになると思う。川反近い料亭の4歳になるお嬢さん。ある朝、お父さんと散歩していたら、誰が植えたのか柳並木の根本に、しおれた朝顔やコスモスを見つけた。『お父さん、可哀相だからお水をやりましょうよ』翌朝からお父さん、左手に水の入ったバケツ、右におもちゃのじょうろを持たされ大変である。良美ちゃんの思いやりで朝顔達は生き、通りすがりの人々の心へ温かさを広げていた」
 これは昭和51年9月、本誌秋田版に書いた「朝のひとこと」と題する小さなコラム。
 花ゲリラ作戦と称して、秋田県を面白くする会の仲間とこっそり、秋田市内某所に花の苗を植えてきた。ま、これはイタズラ的な情緒づくり作戦でもあった。雑草に紛れて、ピンクの朝顔が咲いている。「あ、こんな所に朝顔が・・」と、通りすがりの人が安らぎを覚えてくれたら、いい情緒づくりになると考えた。
 秋田市中心部を流れる旭川沿いの柳並木の根元に毎年6月の早朝、朝顔の苗やコスモスを植えている。ある時、川反のスナックで大学の先輩とたまたま会った。「毎朝、娘に水の入ったバケツを持たされて柳の下に植えられた花に水をやってるよ。一体、あんな所に誰が植えたんだ」「犯人は私です」と自白した。
 去年の夏、昔、メキシコで会った先輩と東京で会って、友人と3人で飲んだ。彼はいう。「飲むときは2人か、3人がいい。4人以上だと雑談になる」
 雑談が悪い訳ではないが、この夏、友人2人と飲んでいて、いい先酒になったことがある。秋田市山王のある小料理屋。ラガーマンだった友人は、明日ラグビーの後輩の結婚式で、相手は料亭の娘さんだという。「良美ちゃん?」「そういう名前だったな」「そうか、それはおめでたい。良美ちゃんはいいお嫁さんになると思う、と昔書いたことがあるよ。コピーするから結婚式で渡して」
 その友人は良美ちゃんの結婚式で私のコラムのコピーをご両親にも渡した。
 婿さんの父上は朝のひとことのコピーを結婚式の写真と一緒に貼って皆に配ったという。
 後日、良美ちゃんのお母さんから、良き「はなむけ」になったと丁重な御礼の手紙を頂いた。良美ちゃんからも結婚式の写真入りのハガキが届いた。添え書きに「とても嬉しかったです。ありがとうございました」とある。あれから二〇数年後に、良美ちゃんはほんとうにいいお嫁さんになった。
 「良美さん、貴女が嬉しいと私は楽しい。花ゲリラ作戦は成功でした。今年も朝顔とコスモスが例の所に植えられてますよ」