職 人さん


 新宿・末広亭。伊勢丹の横、明治通りを渡って右の方にいくとある。30数年前の学生時代から通い詰めているが、江戸情緒を思わせる建物は当時と変わらない。昔、末広亭で晩年の古今亭志ん生師匠の噺を聞いた、というより見た。名人が高座に登場する前から大変な拍手。ご本人は高い声でアーッとかエーッといってあとはムニャムニャ。お客はそれだけでも大満足だった。同じ頃、息子の志ん朝の「船徳」を聞いてあまりのうまさに驚いた。今は、お色気たっぷりの円熟の佳境にある志ん朝師匠がいるというのは、日本人にとって幸せだと思っている。

 学生時代は寄席通いだけでは駄目と一応、「マルクスの経済思想」という本を古本屋から買って読んだ。3ページまで、でした。思想は庶民の人情の機微がわかる落語を聞いて学んだと思っている。

 反骨という言葉が自然と気に入っていた。マルクスなんかではなく、日本人の反骨のジャーナリスト長谷川如是閑の本を読んだ。如是閑翁は晩年、職人と聞いただけで涙を流した。大工の棟梁だった父上を偲んでのことであったかもしれない。思想家でもある長谷川如是閑翁は、長い思想的遍歴の後、日本文化の特質は職人にあるという信念にもとづき、職人こそ日本文化の担い手という。

 長谷川如是閑の「日本歴史の性格」を再読してみる。

 それらしきことが書いている。「日本文明は、平安時代からあらゆる形は、模倣を脱して純日本的になった。ー中略ー古代からの日本人の創意にある科学性が、自然とそうさせたのであった」

 志ん生師匠を見たこともなく、小生に悔しがっている「横手いい落語を聞く会」の佐々木隆一会長に尋ねた。落語の熊さん、八っつあんは職人だと思うが、何をやってたんだと聞いた。「いろいろですね、噺によっては大工だったり、左官だったりする」と教えてくれた。

 この秋、秋田市で第二回全国職人学会が開催される。 落語の佐々木会長にもこの学会の発起人になってもらった。10月13日、秋田キャッスルホテルにて永六輔さんの講演と職人噺をすると天下一品の入船亭扇橋師匠の落語がある。どんな職人噺がでるか今から楽しみである。

 職人学会のスローガンは「伝えよう 美と技の心意気」分科会ではこのテーマで職人さん達から語ってもらう。
 県内の若手職人の作品を展示するコーナーも設ける。
 これからの職人の技を全国に伝えてもらう機会としたい。全国からいい顔をした職人さん達二百人が集まる学会にしたく、如是閑翁も泣いて喜ぶような楽会であればいいんです。