「おかみさんのまちおこし」ー秋田ふるさと塾からー 越後谷 慶子 さん(秋田市・大工町婦人の会)

 私は埼玉県の出身で、秋田市の通町という所に住んで20年になります。通町橋を渡りますと上通町、中通町、大工町の3町でできています。道路の向こう側とこっち側の商店街が通称通町になっているんです。私達が住んでいる所が大工町なんです。大工町って知ってる人はいなんです、知ってました?ああ嬉しい。(笑い)
 そこで大工町ですから、婦人の会をマダム・カーペンターズといいます。(笑い)大工町には何もないんですね。何もないというのは子ども達がいないんです。私達の子ども達が今から10何年前に子ども会を作ったんです。で、うちの子ども達が卒業してしまったら子ども会も終わりなんです。次の子どもがいなんです。みんなジジババ商店街というか、何にも出来てこない。
 通町の道路拡幅というのがあって、車道はそのままですが、歩道がすごく広くなりました。2bの歩道ができて、それまでは斜めになって歩かなければいけないほどだったんです。通町ではなく素通り町といわれていたんです。(笑い)お客が素通りする町だとみんな納得していたんです。

 歩道拡幅の計画が30年たってようやく出来ました。去年の5月に大々的な通町開通イベントが行われました。その時に商店街の旦那さん方が張り切ってチンドン屋を呼んだり、第九じゃないけど合唱団を呼んだりしてやったんです。
 それだけではもったいないといいうので、その後の6月、7月の第4土曜日に、露天を出したりしてまちおこししようではないかと旦那さん達で決まったんですね。上通町の方にはお店がいっぱいいるんですよ。奥さん達にも上通町若妻会があって、半纏かなんか作って色々やっているらいしいんです。で、中通町は関谷さんと銀行があるために、何もやってないんですね。私達、大工町は菊谷小路と保戸野鉄砲町の間なんですけども、中に会社があったり、駐車場や問屋さんがあったりであまり商店がないんです。この5月のイベントの時に、私達に仕方なくラーメン屋さんを回してもらったんです。皆さん、菊屋小路までくるともう、通町ではないと思って行っちゃうんですね。

 私はお祭りが好きなもんですから、向かいの問屋さんの奥さんで東京からいらしたんですが、二人とも関東の人間ですからとても気があって、それじゃあ何かやろうかしらと色々考えたんですが何もないんですよ。それでは手始めにと、大工町の一番外れに川口屋さんというお菓子屋さんがあるんですね。そこからワゴンに乗せて無理矢理お菓子を持ってきたんです。大工町でここからもやってますよと、あわてて白いエプロンをしてやったんです。これが評判がよかったんです。
 8月に草市というのがありまして、これはずっと昔からやっているようですが、大工町商店会としては金魚すくいとかのお店を頼んでいるんですが、今年はスイカでも売らないかと主人達が決めました。私達はその話に何ものってなかったんですが、スイカを仕入れてさあ、売りましょうとなって、夫は偉いもんですから、並べることは並べる。(笑い)全然やってくれなんです。結局、走る回るのは私達だと気がついたんです。
 その時、Mのスイカで、高かったんですが、千二百円ぐらいしてたんです。それを私達は、五百円、六百円、七百円、八百円の段階で売ったんです。そしたら買いに来た人が、中は白いんでしょうとか、どっかの八百屋さんの回し者が来てね、仕入先がどこかわからなければ買えないとかいってね。そういうひどい人も沢山いましたけれども、その時はあっという間に売れたんです、スイカが。(笑い)
 多少儲かったんですね。それで私達手伝ったおかみさん達がお茶を飲もうとなって、で、そこの場でせっかく盛り上がったんだから何かやろうとなったのが、マダムカーペンターズ、大工町婦人の会なんです。
 会をつくるには、会則を作ったりを、きっちりやりました。で、エプロンを作りました。私は洋裁が好きですから私が全部エプロン作って、使ったら洗って私が保管して、九月のイベントの時に、会長、副会長とかではぎょうぎょうしいですので、世話人として3人。私と向かいの奥さんと平野書店の奥さんと3人で世話人です。そこで何を仕入れるか、そこからが大変でした。安くなければ売れないということが頭に入っています。
 仕入れて売れなかったらどうするか。もしも雨が降ったらどうするのか。この責任はだれがとるのかということまで。仕入れは世話人3人がお金を出しました。言い出しっぺの私達が責任を取らなければいけない。会員は23人でした。10日くらい前にポスターを作りました。大工町は誰も知らない。そこからUターンされては身も蓋もない。ポスターはカレンダーの裏に手書きで作りました。全部内の中に貼ってもらって、前日に私達もらいに行って今度は外に貼りました。
 当日は朝からキュウリを袋詰めして、ともかく安かったんです。30本で百円とか、それが口コミで安いというのが広がったんです。売れるには売れたんですが、一番失敗したことは、安いというのが全面にたったので、お客さんは安いということだけで来るということがわかりました。それでももっとまけろとか、儲けはいらないのですが、客層が悪い。(笑い)

 九月には全部売れには売れたんですが、ちょっとショックを受けてしまいました。というのは、私達の売る野菜は無農薬の野菜だったんです。形が悪かったりしてちょっというのが多かったんです。形が悪いと安いと思うのが当たり前なんです。無農薬といっても、十回農薬をやるところを5回にすれば無農薬なんですね。私のところに野菜を持ってきてくれるのは横手の奧の方の人なんです。とても親切でいい人です。九月は失敗だったんですが、十月のイベントは別の作戦を立てました。季節がら温かい、におい、煙を出そうとなりました。

 焼き芋です。(笑い)もう一つは肉まんをやりました。肉まんは仕入れが高いんですね。高くても美味しい肉まんにしようと、ともかく三人で色んな肉まんを食べました。決まったのが高いんです。一個百五十円。売れるかとうか心配でしたが、秋田テレビのワイドユウで宣伝しないかとありましたので、ポスターを持ってエプロン着て出演しました。そしたら、テレビの威力はすごいですね。肉まんと焼き芋が売れました、売れました。その時の客層は9月の時と全然違うんです。(笑い)10月の成功でマダム・カーペンターズのイベントは終わったんですが、そこで問題が残りました。利益が出てしまったことなんです。一番大きな問題は23人の会員の誰が売ったかということなんです。どのくらいの人が手伝いに来ると思いますか。会則にはイベントを協力する、盛り上げるとあるんです。でもお店をやっている人は出て来れないんですね。それできちっと手伝ってくれた人は7人なんです。そこで私達の儲けは時間給ではないかとなりました。
 そしたら時給なんかいらないという人が多いんです。時給分を払って残った利益を次のイベントの費用にする計画なんですが、まちおこしはしたものの、この利益分の配分を如何にするかというのが目下の一番の問題です。これが解決されれば、マダム・カーペンターズは永遠に続きます。(笑い)


 秋田市の中心街・大町一丁目の通町橋を越えて、西に500b程が通町。拡幅工事が終わって綺麗な商店が並ぶ。旧大工町は通りの西側の地区。

 マダム・カーペンターズのリーダー越後谷薬局のおかみさん、越後谷慶子さんから電話があった。「2時から始まりますけど、早く来ないと売れ切れになるかもしれないわ」
 6月の通の市。30分前に行った。「通りゃんせ 通町」と書かれたのぼりが立てかけられ、道端にスミレやアマベルの花が鉢植えに咲いている。
 晴天で暑いくらい。米久肉店から平野書店までの前にテントが張られている。
 お揃いのエプロンのおかみさん達12人が忙しく準備をしている。新鮮野菜、手作りパン、トオモロコシ、綿アメもある。台座に子どもを乗せて実際に綿アメを作ってもらう趣向。10円。これだけは一人の男性が手伝っていた。そのご主人に聞いた。
「商店街が元気になるには、おかみさん達が元気にならないとダメですか」
「そうですよ。男がだらしないですからねえ」

 始まった。おかみさん達がメガホン持って通り町の通行人に声をかける。
 「いらっしゃい、いらっしゃい。小玉スイカも安いですよ」  (秋田ふるさと塾主宰 佐々木三知夫)