平成11年度運輸分野(観光)国際協力人材養成事業研修レポート
@国内研修

 「観光開発とは、ソフト、ハードの面からの整備が必要な地域開発の一種である」

 国内研修初日「観光原論」の講義。講師の国際観光開発研究センター新井佼一専務のいわれた冒頭の結論を念頭に、一週間の国内研修を受講した。

国際観光開発の専門家養成がこの研修の目的といわれるが、 国内観光のみならず地域開発に関心を持ち、実践している者にとって大変な勉強になった、有益な知的財産の蓄積を得たというのが率直な実感。

 まず、ディスティネーション、インバウンド等専門用語が頻繁に使われ、戸惑う。パワーポイントによるプレゼンテーションは関心を持った。
  観光原論では、開発途上国が藁を持つかむ思いで、観光開発による外貨獲得、雇用創出、地域開発を目指すのは安易な発想だとの指摘。
 日本の観光政策では、中国から日本が8番目の観光対象国となり、2000年までには受け入れ予定との情報を得る。
 ロシアの観光協力では、極東地域の観光調査を行い、日露ワークショップで観光関係者の招聘を行う予定については興味深い。
 運輸分野の国際協力の講義においても、これからは環境問題に配慮した観光開発を行う必要性。「ロシア支援委員会」において、シベリア鉄道の活性化に向けての検討を行う。

 又、観光大学設立のについて、分野によってニーズの検討をしていたとのことは関心を もたれる。
国際協力の仕組みをJICA、OECFの説明で円借款等についても理解を深めることができた。
 観光振興、航空産業の講義の中で、戦略論は実践的で参考になる。現状分析、目標設定、マーケティング戦略とすすみ、ディスティネーションの分析では、SWOT(長所、短所、チャンス、脅威)は他の分野でも応用分析できよう。

 観光素材の必要条件と特徴とは、

 1治安、2清潔、3観光資源、4ハード、5ソフト、6価格、7その他とある。

 ソフトとは、ホスピタリティ(もてなしの心)でアロハスピリッツ、ハワイの心が有名。観光資源は、歴史、自然、アクティビティがある。これからは観光型から行動型、価格競争から付加価値へ、リピーター化、ディスティネーションの魅力とある。

 日本人が行きたい国は1スイス、2フランス、3カナダ、4イタリアであるのは、日本人にとってヨーロッパは依然としてあこがれなのであろう。又、量より質、贅沢に楽しみたいという欲求が強くなっているのが実状とは理解できる。

観光関連産業でのホテル講義は、実践、体験的な座学で興味深かった。ホテル業界の裏事情や、ホテルの成功はリピーターにあるとの断言は説得力があった。

 タイの観光客の50%がリピーターだということは、タイの観光政策が成功しているということだろうか。  マレーシアの観光促進事情の講義で、マレーシアの魅力を次のようにあげられた。
  1治安、2気楽さ、3海、4人がいい。人がいいとは、マレーシア人はおっとりして、ホスピタリティが高いという。

自分なりの海外研修のテーマに、この「もてなしのこころ」を調査したいと考えた次第である。

2 海外研修 「タイの観光資源」

「amazing THAILAND」

 タイ・バンコック市内にある、TAT(タイ国政府観光庁)のビルに、タイの観光キャンペーンを書いた大きな看板が見えた。
 10月4日。TATの会議室。セタポン チダノン政府観光庁投資管理部長からタイ観光のビデオ放映、講演があった。
 タイは、観光収入が外貨収入のトップ。アメイジングタイランドのキャンペーンで、老人にやさしい国民性から、これからは高齢者を多く招聘したいと語る。バンコクは文化都市宣言をした。観光資源は多くの蓄積があるが何といっても、一番がピーポルであって、ホスピタリティだといわれる。
タイ語で観光の語源は何かとの質問に、トンティオ(旅行)という。

 日本語の観光は、光を観ると書く。語源は、「易経」の「観国之光、利用賓干王」(国の光を観す、もって王に賓たるに利し」(藤堂明保編「漢和大辞典」)すなわちその国の優れた景観・文化などをみせることに基づく。ちなみに、英語での観光tourismの語源tourは、もともと円を描く用具のラテン語tornusから発生したものといわれる。このことは19世紀の中頃になって、それまで帰れる保証もなく苦労して旅行していた人(travelerの語源travailには苦労するの意がある)が、円を描くときのように出発点に戻れる観光客(tourist)となったことを示している。

 タイの観光の語源は、ラテン語のtravail(苦労する)の意味があるらしい。
 タイ政府観光庁のチダノン投資管理部長がいみじくもタイの最高の観光資源は人間、温かいもてなしの心だという。

 10月7日、マレーシア政府観光局を訪ねた際、アダブラ総裁も同じことをいわれた。マレーシアの観光資源はマレーシア人の笑顔だという。「ただし、タイの笑顔は笑顔だけ、シンガポールはお金をだせば笑顔」と我々を笑わせた。

 タイの観光資源については、アメイジングタイランドのパンフレットにコーン・タッパランシン副首相のメッセージに示されている。

「タイランドはホスピタリティの国と言われ、私達は努力して、この名声を守り続けております。温かく迎え入れる態度と伝統が、旅行者や観光客をしてこの国に向かわせてくれます。人々がタイランドを思い浮かべる時、ビーチと島、森と山、あるいは色彩豊かな都市生活、人懐っこいタイ人と人を温かく迎え入れる様子が、いつも絵の一部のように連想されるのです。
 しかし、タイランドには、それ以外にも、仏教寺院を中心とした地域社会という組織の中で、自然と調和した生活をしていた昔から伝わる“青と緑”の世界があります。自信と自助及び心身両面での自然界と緊密な関係がその特徴です。
 この特徴は現在も残っており、貴方の健康と幸福に寄与するこの特徴を、タイランド生活をあらゆる面で、貴方がタイランドの輝かしいスペクトルを楽しんでいる間に発見するでしょう」

 では、観光資源とは何んだろうか。東京工業大学名誉教授の鈴木忠義氏によると

「魅力ある観光資源とは、自然や文明の積み重ねによる歴史や文化そのものであり、現代のお金や技術では簡単に創ることのできない、固有性、独自性を持つもの、特に代替がきかないということが特徴です。観光者側からいえば、見ることによって何かを感じとり、自己発見へのいざなう対象となるもの」と定義づけています。
 観光旅行の対象となる観光資源は、自然や人間が長い時間をかけて創り出した、現代の技術で簡単につくりだすことのできない文字通り国の光です。

 観光資源の種類として、自然資源と人文資源の2種類がある。

 自然資源には、山岳、高原、原野、湿原、湖沼、峡谷、滝、河川、海岸、岬、島、岩石・洞窟、動物、植物、自然現象。

 人文資源には、史跡、社寺、城跡・城郭、庭園・公園、歴史景観、地域景観、年中行事、歴史的建造物、現代建造物、博物館・美術館が類別される。

 この観光資源の基準からして、タイには豊富な観光資源がある。

 18年振りのタイであった。印象に残っているのは自然現象の太陽。早朝、ホテルの窓から見えたコバルト色の日の出の美しさは、言葉にいい尽くせない。

 ホテルから出ると喧噪の街を黄色い法衣をまとったお坊さん達が托鉢に歩く姿が見える。少女がお米と蓮の花と果物の供物をお坊さんにあげて、鼻の上に手を合わせ、腰をかがめて合掌する。その光景は温かかった。
 タイへのレピーターとして、昔との違いは、バンコクのレストラン前で子ども達の物売りがいなくなったこと、自動車の数がもの凄く多くなったことだろうか。

 バンコクの夕暮れ。ホテルの窓から市街を眺めた。高層ビルが林立している。だが、空室が多く暗い。2年前の経済危機の嵐の後、まだ立ち上がれていないタイ経済の表す光景なのだろうか。夜、日本人商社マンの集まるクラブでの事。洗面所で背広姿の日本人が、携帯電話で怒鳴っている。「そんなら、商売やめや!」
 10月1日付けバンコク週報によると、一面の見出しが、ー悩めるタイ人、自殺者数急増、手段も過激にーとある。

 「先月5日、都内チャトチャック地区の25歳になる男性が失業を苦にピストル自殺。恋人が部屋を出た直後の出来事であった。日本では昨年の自殺者数が過去最多の32,863人を記録、前年比34,7%増となっているが、タイでも近年、ストレスを直接・間接の原因とする自殺が急増、社会問題となっている。ホットラインにはストレスに悩む市民からの電話が殺到。精神科を訪れる患者も着実に増加しており、精神科医の不足も深刻になっている。『楽天的』というタイ人の代名詞はもはや過去のものといえそうだ」

 楽天的なタイ人気質が変わることはないだろうが、自殺者急増、暗い街は1997年7月タイで発生した通過危機の影響が未だに陰を落としているのだろうか。
 タイの最も魅力的な観光資源がタイ人の笑顔、ホスピタリティだとすれば、笑顔には花が似合う。タイには日本では見られない熱帯アジアの花々が見られる。

 タイの国花はゴールデンシャワー。黄色い可憐な花をいっぱいつけた蘭である。特別に熱帯植物園を作るのではなく、街路樹として、又、観光地の一画に熱帯の花々を植えたい。 花は人を呼ぶ。ブーゲンビリア、ハイビスカス、ホウオウボク、オウコチョウ、カエンボク、アリアケカズラ等、花々がタイ人の笑顔を引き立たせてくれよう。